市川市の「テスラ問題」は国産自動車メーカーの怠慢

 ワイドショーやネット記事などで話題になった千葉県市川市のテスラ問題。市川市環境政策の一環として、市長と副市長の公用車用に2台のテスラを導入したことで、市民やメディアから批判が噴出している。

 EVを導入するにしても、何故国産車ではないのか、との疑問の声も上がっている。

 

 テスラ・モーターズは2003年の設立以来、一環して電気自動車(EV)の研究開発に取り組み、2008年の「ロードスター」の販売開始から売り上げを伸ばし、2018年の販売台数は245,240台と過去最多を達成。これは、ドイツの歴史的なスポーツカーメーカーであるポルシェの2018年販売台数256,255台に迫る勢いになった。しかも、たった15年で。世界的な環境保護への取り組みと、他の自動車メーカーのどこよりも先んじて、完成度の高いEVを展開したところによるものが大きい。

 

 そんなテスラのEVを、公共機関が環境政策の一環として導入することは、取り組みをアピールする上での大きな材料になる。

 国内では、世界のトヨタハイブリッド車が蔓延しているが、少なかろうとガソリンを使うハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHV)であり、二酸化炭素削減の環境政策としては、実に中途半端な印象を与えてしまう。

 

 ここで着目したいのが、同市が購入したテスラ車が市長と副市長の公用車用であるということだ。

 両者は紛いなりにも、市川市のツートップである。さすがに国産車最高峰の「センチュリー」とまでは言わなくとも、やはりそれ相応の車種が必要ではないだろうか?

 

 残念ながら、国産車ではサルーンSUVのEVは見当たらない。それどころか、世界を見渡しても昨年の2018年、イギリスのジャガー「I-PACE」を筆頭に、ドイツのメルセデス・ベンツが「EQC」、アウディが「e-tron」を発表したばかりだ。いずれもミッドサイズSUVで、テスラは同じ車格の「モデルX」を2015年から既に販売している。EVサルーンは未だテスラの独断場で、「モデルS」は2012年から販売しているのだ。(厳密に言えば、5ドアハッチバックであるが)

テスラの現在のラインナップは、Eセグメントに位置する「モデルS」とミッドサイズSUVの「モデルX」、そしてDセグメントに位置する「モデル3」の3車種となる。

 国産で販売している僅か2車種のEVは、日産「リーフ」と三菱「i-MiEV」だけだ。前者はCセグメント、後者に至ってはAセグメントに位置するだろう。

 これらを市の職員用の公用車にするのなら、大いに結構なことだ。役所に充電器を設け、市民にも解放すれば、市民への還元と環境政策へ取り組む立派な行政である。しかし、市のツートップがCセグやはたまたAセグなんかの後席に乗っている様は、滑稽で仕方がないだろう。例えば、自分の勤めている会社の経営方針に環境保全があったとしても、社長や会長が「リーフ」や「i-MiEV」で移動をしていたら、私なら恥ずかしくて仕方がない。市長という役職自体の威厳を失墜させてしまうし、市民に恥をかかせてしまうことになるだろう。

 そうなると、EVの中では長い歴史があり、サルーンSUVを取り揃えているテスラが、市長・副市長の公用車としては、第一候補に挙がるのも納得いくものでないか。

(本当ならば、「モデル3」が安価なEVサルーンとして妥当だとは思うが、生産の遅れなどできっと納期が不透明なのだろう。)

 

 市民の血税が海外企業へ流れてしまうことに対しては、ナショナリズムの観点からも、納得し難い部分があるのかもしれない。しかし、世の中は自由競争であり、世界の兆候を読み取り、先んじて取り組んだ者に分があるものだ。

 

 そして、後手後手に回った国産自動車メーカーは一体何をやっているのか。EVの「クラウン」を、EVの「フーガ」を、さっさと作っていればこんな問題は起こらなかった。

 行政がEVを導入する程に、世界的な環境問題への取り組みが加速し、二酸化炭素を削減しようとしている。

 テスラに遅れを取りながらも、自動車産業大国ドイツの各メーカーがようやく自社EVを発表し始めた。(あのポルシェまでもが。)

 いつまでもHVやPHVに甘えていて、また一向に普及する見込みのない燃料電池自動車(FCV)から目を覚まさないトヨタ。 「リーフ」に甘んじてしまい、なぜかEV車種を全く増やそうとしない日産。

 市川市の「テスラ問題」は、国産自動車メーカーの怠慢だ。